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💡 ポイント・論点
国際人道法上、大きく二分すると、武力紛争に関わる個人は戦闘員(combatants)と文民(civilians)のいずれかの地位を持ちます。(衛生要員等の非戦闘員である軍隊構成員や、軍隊に随伴する文民など、中間的なカテゴリーが個別に定められていることに注意を要しますが、ここでは基本的な2分類として戦闘員と文民の地位を説明します。)
- 戦闘員
- 「敵対行為に直接参加する権利を有」し(第1追加議定書43条2項)、国際法上合法な戦闘行為について処罰を受けることはない。
- 敵の権力内に陥った(捕らえられた)場合には捕虜としての待遇を享有できる(捕虜条約4条・第1追加議定書44条1項)。捕虜の取扱い
- その代わり、戦闘員は合法な軍事目標となるため、軍事行動の対象(標的)となる(第1追加議定書48条)。
- 文民
- 敵対行為に直接参加(DPH: Direct Participation in Hostilities)する権利を有さず、攻撃の対象とならない(第1追加議定書51条2項)。
- ただし、DPHした場合には
- ①文民としての保護を喪失して攻撃の対象となり(第1追加議定書51条3項)
- ②紛争当事国の国内法により(例えば殺人罪や傷害罪、器物損壊罪などで)処罰される可能性がある。
- これを超えて、さらに③文民によるDPHが国際法上も違法となる(戦争犯罪を構成する)かについては、争いがあります(『防衛実務国際法』は否定説が通説と説明している(344頁paras. 719-720))。
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ウクライナ市民による抵抗
事実関係
ウクライナ各地で、一般市民による抗戦活動も盛んに行われていると報じられている。
関連する国際法の論点
このうち、志願したり徴兵されたりするなどしてウクライナの軍隊に正式に編入された者は「紛争当事者の軍隊の構成員」となり、戦闘員の地位を得る(第一追加議定書43条2項)。
これ以外の者でも、いわゆる群民兵(levée en masse)であれば戦闘員の地位が認められる。群民兵とは次の定義に該当する者である。正式な軍隊編成の余裕がない場合が想定されているため、正規兵よりも捕虜資格が緩やかに定められている(例えば統一的な制服着用等の要件はない)。
この条約において捕虜とは、次の部類の一に属する者で敵の権力内に陥ったものをいう。
〔…〕
(6)占領されていない領域の住民で、敵の接近に当り、正規の軍隊を編成する時日がなく(without having had time)、侵入する軍隊に抵抗するために自発的に(spontaneously)武器を執るもの。但し、それらの者が公然と武器を携行し(carry arms openly)、且つ、**戦争の法規及び慣例を尊重する(respect the laws and customs of war)**場合に限る。
これらに該当しない者は文民であり、敵対行為に直接参加(DPH)する権利を持たない。どのような行為がDPHに該当するのかは「最も困難であるが未だ解決されていない国際人道法諸問題の1つ」(ICRC)とされ、ICRC法律顧問が2009年に解釈指針を発表している。
- Nils Melzer, Interpretive Guidance on the Notion of Direct Participation in Hostilities under International Humanitarian Law, 2009.
- 日本語版:ニルス・メルツァー『国際人道法上の敵対行為への直接参加の概念に関する解釈指針』(2012年)
- Emily Crawford, “Armed Ukrainian Citizens: Direct Participation in Hostilities, Levée en Masse, or Something Else?”, EJIL Talk!, 1 March 2022
- Ronald Alcala and Steve Szymanski, “Legal Status of Ukraine’s Resistance Forces”, 28 February 2022
- David Wallace and Shane Reeves, “Levée en masse in Ukraine: Applications, Implications, and Open Questions”, Articles of War, 11 Mach 2022